蝉の初鳴き

帰省してまた帰京する時決まって母は駅(停車場とよんだほうが似合っているような。今は廃駅になっています。)まで送ってくれます。
途中私が修業に出た翌日から毎朝母が私の無事と健康を祈っている社を通ります。
お詣りを済ませ再び蝉時雨の中を駅に向かいます。
少しづつ言葉少なになっていた母が誰に言うとでも無いような小さな声で「今年の蝉の初鳴きは7月23日やったな。」「………そう。」私もつぶやくように答えました。
当時千代田区のビジネス街で住み込みで修行中だった私にはとても蝉の声を聞く心の余裕が無く少し驚きでした。
もう50数年も経っているのに7月23日に蝉の声を聞くと母の淋しそうな声と顔が蘇ります。