封印された歌

だんらんには封印された歌があります。
その歌は作曲者も作詞者も曲名すらも知りません。
開店した頃 冬になるとあや子さんがよく歌った歌です。
寒い寒い冬の夜です。
昨日も今日もお客さんは来てくれません。また今日も些細な事で言い争いをしてしまいました。後片付けをしながらあや子さんが歌うのです。

♫ 寒さ凍みる夜だから きっと故郷は雪だろう
  懐かしいな 粉雪さらさら囲炉裏端
  今夜も とっとさんはわらぐつこさえているだろな ♫

望郷の歌だったんですね。あの頃の私にはそれに気づき思いやる心の余裕すらなかったのです。
何年かして生活が落ち着いてくると冬になってもこの歌を聞くことは無くなりました。
どれくらい経ってからか,寒い夜 ふと思い出して私がこの歌を口ずさんだ事があります。
すぐにあや子さんが「その歌やめて!辛かった日を思い出すから!」
たじろぐほどのきつい顔で言われてしまいました。
そんなにも辛い日々だったとは今更ですが申し訳なかったと思います。
以来だんらんでその歌が歌われる事はありません。
でも私は今でも確信して言えます。あや子さんが歌ってCDにして販売したらミリオンセラーになると。
そうなるとちょっと生活が楽になるかな。
店主敬白(軽薄?)

すし屋のひとり言

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