靴磨き屋さんの記憶
今は全く見なくなりましたが40数年前の銀座裏通りには多くの靴磨き屋さんが営んでいました。
その中でいつもお客さんが一人二人順番を待っている靴磨きのおじさんがいました。
ある時 週間新潮のコラム欄にこのおじさんの記事が載ったのです。
「どうして人気があるのですか?」との問いにおじさんは「私はお客さんの顔も声も知りません。差し出された靴を一日でも永く綺麗でいてくれるよう願いながら磨いているだけです。」
この記事が出てからどれくらい経ってからか記憶がないのですが、ある日ぷっつりおじさんを見かけなくなりました。
そして再度週間新潮のコラム欄に記事が載りました。タイトルは「ちょっといい話」だったと思います。
内容は次のようだったと記憶しています。
少し経ってからおじさんが磨いていた場所のガードレール(当時は背の低いガードレールがあったのです。)に小さなダンボールの切れ端がぶら下がりました。
それには「父は亡くなりました。ご贔屓ありがとうございました。娘」とだけ書かれていました。するとその場所の前の喫茶店に靴磨きのおじさんの住所を問い合わせるお客さんが多く訪れ、住所を知っていた喫茶店のご主人が教えたそうです。
おじさんの自宅には日曜日ごとにお花を持った多くの常連客の弔問があり、娘さんが応対されたそうです。
「私はお客さんの顔も声も知りません。差し出された靴を一日でも永く綺麗でいてくれるよう願いながら磨いているだけです。」
私はこの言葉から「無口でも一生懸命仕事をしていればお客さんは支持してくれる。」そう教えていただきました。
私が無口なのはおじさんに感銘したからかもしれません。
店主敬白(軽薄?)
追伸
岩波ホールで上映中のハンナ.アーレントはお勧めです。